IAMAS Graduate Interviews

INTERVIEW 022

INTERVIEWER 鈴木宣也 IAMAS教授
#2020#Chief Creative Officer#NOBUYA SUZUKI

GRADUATE

川嵜鋼平

株式会社LIFULL執行役員 Chief Creative Officer/2003年卒業

常に“越境する感覚”でものづくりをしている

株式会社LIFULLの執行役員 Chief Creative Officerとして、クリエイティブの力で人の生活を豊かにする多様な事業を手掛ける川嵜鋼平さん。その既成概念にとらわれないクリエイティブ力をどのように養われたのでしょうか。鈴木宣也教授がIAMASから現在までの道のりを辿ります。

社会課題を解決する事業をクリエイトする

鈴木:最初に、現在のLIFULLでの活動について聞かせてください。

川嵜:2017年5月から株式会社LIFULLでChief Creative Officer(CCO)を務めています。ブランド戦略やマーケティング、プロダクトデザイン、広告クリエイティブ、PR、研究開発など、子会社も含めてグループ全体のクリエイティブの管理?監修を担っています。
アウトプットも、一般的なテレビCMや交通広告といったコミュニケーションのタッチポイントから、プロダクトデザイン、新規事業のサービス開発と多岐にわたります。

鈴木:LIFULLはどのような会社ですか。

川嵜:元々は不動産?住宅情報サービスを提供する会社だったのですが、2017年4月に、「あらゆる LIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージを掲げ、「あらゆる人の暮らしや人生を、安心や喜びで満たしていく」のビジョンのもと、暮らしや人生にまつわる様々な領域に事業拡大をしています。例えば、空き家を利活用した地方創生事業や、介護事業、お花や食事業など、幅広いカテゴリーの事業を展開しています。

鈴木:それらのクリエイティブをすべて統括しているのですか。

川嵜:そうです。クリエイティブに関しては、すべて僕が最終承認をしています。クリエイティブディレクションだけに関わる案件もありますし、戦略、企画から入ってしっかりと作り上げていくものもあります。

鈴木:大きな会社なので、そのすべてに携わるのはかなりの仕事量じゃないかと思うのですが……。

川嵜:めちゃくちゃ大変です。おそらく卒業生で一番働いているんじゃないですかね(笑)。
ブランドやプロダクト、コミュニケーションなどのクリエイティブのほか、組織づくりや、採用、財務面も見ているので、責任も重大です。

鈴木:LIFULLで具体的に携わった広告や新規事業にはどのようなものがありますか。

川嵜:ひとつは、LIFULL企業CMです。LIFULLという会社は、安心や喜びをさまたげるような社会課題を解決することを事業の中心に置いているのですが、生活者の視点で見ると、まだまだ既成概念にとらわれた価値観が多く残っています。そういう様々な既成概念を超えて、多様な生き方や暮らしの可能性を選択して欲しいという企業メッセージを「しなきゃ、なんてない。」というシンプルで力強い言葉に込めて打ち出しました。

▲ LIFULL 企業CM「しなきゃ、なんてない。」篇 120秒ver.

最近では、今年9月に、「住宅弱者」問題を知ってもらいたいと、渋谷周辺に交通広告、屋外広告を掲出しました。LGBTやシングルマザー?ファーザー、外国人、高齢者や生活保護を受給されている方などが、そうしたバックグラウンドを理由に住まいの選択肢が限られているという大きな社会問題があります。「ペット可14%。同性カップル可が0.1%。どうして部屋探しは、人に冷たいんだろう」とファクトを打ち出すことで、住宅弱者の問題に対する気づきを与えることを狙いました。

▲ 「ACTION FOR ALL 渋谷OOH」

鈴木:僕もペット可の物件がなくて苦労した経験があって。14%どころか1%もないんじゃないかという実感があります。そうした社会問題に企業として取り組むということは、とても貴重な存在ではないかと思いますし、川嵜さんの取り組みに共感します。
新規事業に関しては、どのようなものがありますか。

川嵜:2年前にローンチした、お花のサブスクリプションのサービス開発に携わりました。現状花屋では3?5割の花が廃棄されているという状況があります。その問題を農家や市場からダイレクトに消費者に旬の花を届けることによって解決するという観点でプロダクトデザインをしました。

少しとがったところでは、Earth Cuisine(地球料理)というプロジェクトの一貫で、サスティナブルフードの開発にコンセプトから関わっています。第1弾では間伐材の問題、第2弾では放置竹林の問題に取り組み、2019年9月に「Bamboo Sweets -竹害から生まれた和菓子-」を発表しました。

▲ 「BAMBOO SWEETS(日本語字幕入)- Earth Cuisine」

竹は世界で最も成長が早い植物で繁殖力が非常に強いのですが、根が浅く、土砂災害を引き起こしやすいことが社会問題になっています。需要減少や生産者の高齢化によって放置竹林が増える中、竹を食べるという新たな需要を生み出し、それを起点に持続可能な社会を作ろうと考えて、実施したプロジェクトです。

鈴木:実は家にも竹林があって、近所の人が勝手にタケノコを取っていってくれるので辛うじて保てているというのがあるので、竹林の問題はとても身近に感じます。

資本主義の外にある美意識や言葉にできない感動を作ることが本当の意味でのクリエイティブ

鈴木:LIFULLに転職する以前の話も遡って伺っていきたいと思います。

川嵜:LIFULLで4社目になるのですが、その前の2社は外資系の広告代理店です。
前職はジェイ?ウォルター?トンプソン(JWT)というニューヨークが本社の外資系の広告代理店で、ネスレのキットカットや森永乳業のクリエイティブ責任者をしていました。
前々職のビーコンコミュニケーションズでは、NIKE、P&G、エバラ食品、フィリップ?モリスといった企業のクリエイティブディレクションを担当しました。

鈴木:その2社では、広告主体の仕事をしていたのですか。

川嵜:広告のクリエイティブディレクション、クライアントワークもしっかりとしながら、少しはみ出したものを作るというか、越境する感覚でずっとものづくりをしているので、広告代理店ではやらないような領域のプロジェクトも、色々な企業と協業しながら自主提案としてきました。

例えばJWTでは、大沢伸一さんの新曲発表の際に、植物をスピーカーに変える先端テクノロジーを活用し、フラワーアーティストのニコライ?バーグマンさんが監修した植物公園「Singing Nature」をオープン。人が最も癒される自然を広告メディアにするという新たなメディア開発を試みました。

▲ 「Singing Nature」

鈴木:メディアアートを広告に応用しているような印象を受けました。

川嵜:そうですね。もしかしたらアートも資本主義の一部なのかもしれませんが、いわゆる資本主義は自分の暮らしの中のほんの一部にすぎない。資本主義の外にある美意識や言葉にできない感動を作るっていうことが本当の意味でのクリエイティブだと僕は考えています。だから資本主義の枠組みの中で仕事をしてはいるのですが、それだけではない価値観をちゃんと持ちながらアウトプットをしていきたいというマインドセットでいます。

鈴木:すばらしい。IAMASの卒業生としては100点満点の答えですね(笑)。

川嵜:前々職のビーコンコミュニケーションズで手掛けたエバラ食品の浅漬けの素のプロモーションでも、「おくちの中の遊園地」というコンセプトで、テクノロジーを使った、いわゆる6媒体以外の新しい体験作りを試みました。これは8年前の仕事になりますね。

▲ 【event】おくちの中の遊園地_エバラ食品工業

鈴木:今でこそ普通になっていますが、8年前にこういう展開に取り組むのは、かなり先駆けだと思います。

川嵜:そうだと思います。IAMAS生だからかもしれないですけど、広告業界だと理解されにくいものづくりをしてきたという自負はありますね(笑)。

鈴木:これまでに広告賞も多く取られていますよね。

川嵜:おかげさまで、これまで所属した会社でCannes Lions金賞、CLIO金賞、One Show金賞、ADFESTグランプリ、Spikes Asia グランプリをいただきました。

鈴木:それはすごいですね。
LIFULLや外資系の会社では様々なクリエイティブを展開していますが、IAMAS卒業後に就職したIMG SRCはデジタル系のクリエイティブが中心の会社ですよね。IMG SRCではどのような仕事をしていたのですか。

川嵜:最初はいわゆるオンスクリーンのデザインやFLASHのオーサリングからキャリアを始めました。
デザイナーからアートディレクターになった頃、PARTYという会社でCCOをしている伊藤直樹さんと「UNIQLOCK」を手掛けたprojectorの田中耕一郎さんという、その当時も広告業界の枠を超えた活動をされているクリエイティブディレクターと仕事をさせていただいたことが転機になりました。彼らとの仕事を通じて、プランニングの手法やクリエイティブディレクションのイロハを吸収できたことは大きかったですね。
実は当時からエバラにつながるような仕事をしていて、初めてカンヌを取ったのはIMG SRC時代なんですよ。

鈴木:それはどのような仕事ですか。

川嵜:「REC YOU」という、ソニーのWalkmanのキャンペーンサイトです。
顔写真を登録すると、Walkmanをつけてヘッドバンギングしながら歌う映像が生成され、それがキャンペーンサイトやバナー、テレビ、屋外広告などで流れるというものです。これは13年前の仕事で、僕は20代半ばでしたね。

鈴木:スマートフォンを使えばすぐにできると思いますが、2007年に同じようなことを実現していたとは驚きます。

川嵜:これは伊藤直樹さんと一緒にやった仕事で、僕はアートディレクションとデザインを手掛けています。

鈴木:その話を聞いていると、IMG SRCという会社が今を作っているような印象を受けますが、いかがですか。

川嵜:うーん。IMG SRCだけではなく、IAMASの同期の活躍に刺激された部分もありますし、外資系の代理店での経験も大きいです。例えば、JWTは世界に200オフィスあります。そのネットワークを介して、インドのクリエイティブがどういう仕事をしているのかを知ることができますし、自分が作ったものに対してニューヨークのクリエイティブのトップからフィードバックをもらえたりします。今までにない視点や学びが多くあったので、そうした経験も今の考え方や生き方に影響を与えていると感じます。

IAMASはアートでもサイエンスでもない越境した場所。強烈な人に囲まれ、生き方を学んだという読後感が強い

鈴木:IAMASでの川嵜君はいつもデザインスタジオにいて、コツコツと制作をしていたという記憶があります。当時はどのような作品を作っていましたか。

川嵜:卒制は「aggregation」という作品で。Javaアプレットを使って、まさに言葉にできない美しさというものをプログラミングで作るインタラクティブな作品だったと思います。

鈴木:確かマウスで触ると、色が変わったり、音が鳴るような作品でしたよね。

川嵜:音が出たかは記憶が定かではないのですが、マウスに追随して、美しく色や形が変わる、ふわっとした作品だったと思います(笑)。
タイポグラフィのような、いわゆるグラフィックデザインと、古堅(真彦)先生に教えてもらったプログラミングを使ったデザイン。その両方が好きで、卒業制作なので、自分が一番美しいと思えるものを作ろうと考えていたのではないかと思います。

鈴木:IAMASで学んだことで印象に残っていることはありますか。

川嵜:正直言うと、先生方も非常にユニークな方が多かったので、何かを教えてもらったというよりは生き方を学んだ感じがあります。
先ほどの資本主義の話にも通じるのですが、やはり岐阜ということもあって、産業や資本から一定の距離があるので、本当に自分たちが納得できる、自分らしいものづくりをすべきだということが、IAMASの根幹にあったと思うんですよね。

鈴木:確かにそうですね。

川嵜:同級生も(真鍋)大度君とか山城(大督)君とか、強烈な人が多かったので、そういう方々を横目に見ながら、自分は何者なんだってずっと考えていたんですよ。だから、IAMASでは生き方を学んだっていうのが、読後感としては強いです。卒業する時にほとんどの人が就職しなかったというのが象徴的で、めちゃくちゃおもしろい学校に行ったなあと思いましたね。

鈴木:でも川嵜君自身は卒業する時にはIMG SRCに就職することが決まっていたんですよね。

川嵜:はい。僕は自分の才能やスキルがまだまだ足りていないという実感があったので、それを仕事をする中で身につけていこうと、就職という進路を選んだのだと思いますね。

鈴木:印象に残っている授業はありますか。

川嵜:細かい内容までは覚えていないんですが、古堅さんが回るものをひたすら集めてこいという授業をやっていたんですよ。

鈴木:ありましたね。たしか古堅ゼミです。結構無茶ぶりするなあと思って見ていました。

川嵜:突き抜けてましたよね。僕もゲストで呼ばれて授業をすることがたまにあるんですけど、さすがに回るものを集めるみたいなことはできないなといつも思います。

鈴木:他に影響を受けたことはありますか。

川嵜:アーティストインレジデンスとしていらっしゃった、ロシアの男性と女性のアーティストですね。

鈴木:ゲルファンド?ドミトリーですね。ある周波数を水溶液に与えると、水溶液が発光するような作品を作っていましたね。

川嵜:先ほどの外資系の話に繋がるんですけど、日本人にはおそらく作れないような作品を間近で見れたことは良かったと思っています。

鈴木:ああいうことを考えて、作品にすることは、日本人でなかなか思いつかないアプローチではありますね。
アーティストインレジデンスは学生にとっても魅力的だったと思うんです。身近に世界各地のアーティストが来て制作過程を見ることができる機会はなかなかありませんし、それは教員にとっても結構刺激的だったんですよ。

川嵜:もともとIAMASはアートでもないサイエンスでもないっていう、ちょっと越境したスタンスがあったと思うんですけど、その象徴的なプログラムだったなと思います。

ジャンルを越境した、自分が何者か分からない人が、次の時代のものづくりの中心になる

鈴木:今IAMASを外から見て、どのような印象を持っていますか。

川嵜:実は卒業してから1度もIAMASに行っていないのであくまで印象になるのですが、昔に比べて専門性も高くなっていると思いますし、僕らがいた頃よりも独自の路線は歩んでいるように感じます。元々オリジナリティのある学校ですし、メディアアートという言葉の概念をどんどんアップデートしている気がします。

鈴木:IAMASも昔のままでいるわけにはいかないので、どんどんアップデートしていかなきゃいけないと思っています。そういう意味では社会におけるメディアアートという概念自体も、徐々にアップデートしているところはあるかもしれないですね。インタラクションだけではなく、テーマもより社会的になりつつあるのかもしれません。
最後にIAMASに今後期待することがあれば聞かせてください。

川嵜:やはり資本主義の外側、型にはまらない人材をどんどん輩出してほしいですね。
今は働き方がどんどん変化していて、会社に所属していたとしても、会社対会社ではなく個対個の仕事になっていくと僕は考えています。会社の中でも外でも、強い個が活躍する時代になってくると思うんですよ。
今まで自分が経験してきたことを通して、どれだけ多様な視点を蓄積しているか、斜め上からアイディアを出せたり、他の人が気づいていなかった価値観や領域を持っていることが大事になってくる。そういうトランスカルチャーというか、どこの学会にも属さないような教育や研究を行う人材が現れるのを期待しています。
でも、面白いものづくりをしている人はIAMAS出身者だったりすることが未だに多いですよね。

鈴木:本当ですか!例えば誰がいますか。

川嵜:例えば、ロフトワークの石塚(千晃)さんとか。クリエイティブディレクターでありながら、バイオをテーマに作品を作ったりされていて面白いなと思います。

鈴木:大学院という立ち位置から考えると悩ましいところもありますが、今後もより多様な領域を巻き込むようにして行きたいですね。

川嵜:一時期大度君が肩書きをどう名乗ればいいか分からないという話をしていたんですよ。僕も今はCCOと名乗ってはいますけど、デザインもするし、コピーも書くし、コードを書くこともある。経営指標を見ることもあるので、自分が何者か分からなくなる時があるんです。もしかしたら自分が何者か分からないというのは、次の時代のものづくりの中心になるのかなとも感じています。

取材: オンライン

編集?写真:山田智子

PROFILE

GRADUATE

川嵜鋼平

株式会社LIFULL執行役員 Chief Creative Officer/2003年卒業

2017年LIFULL入社。執行役員 Chief Creative Officerとして、ブランド戦略、ブランドデザイン、プロダクトデザイン、マーケティング、コミュニケーションデザイン、新規事業、研究開発など、国内外グループ全体のクリエイティブを統括。またクリエイティブ組織の戦略策定?育成?採用など、組織づくりも担う。
それ以前は、J. Walter Thompson Japan、beacon communications k.k.、IMG SRCに所属し、Uniqlo、Sony、Nike、Nestle、P&G等の企業のクリエイティブディレクション、アートディレクション、デザインを数多く手がける。また、東京大学、慶應義塾大学などの大学研究室、企業研究機関と共に、産学連携を通した新たなサービスイノベーションも手がける。
最近のプロジェクトに、LIFULL企業CM「しなきゃ、なんてない。」、地球料理 Earth Cuisine「持続可能な社会を叶える、LIFEを見つめ直す一皿を。」、Living Anywhere「自分らしくを、もっと自由に。」などがある。Cannes Lions金賞、One Show金賞、CLIO金賞、Spikes Asia グランプリ、ADFESTグランプリ、文化庁メディア芸術祭優秀賞、コードアワードグランプリをはじめ、国内外の180以上のデザイン?広告賞を受賞。
http://koheikawasaki.com/

INTERVIEWER

鈴木宣也

IAMAS教授

1969年東京生まれ。情報通信技術を用いたメディアやプロダクトに関するプロトタイプ制作とそのインタラクションデザインあるいはサービスデザインを研究対象とする。アート、デザイン、工学などの複合領域を横断する活動と、それらの展示運営なども実践。”三人 三脚”が Prix Ars Electoronica 96 入賞、”本阿弥光悦マルチメディア展示プロジェクト”がマルチメディアグランプリ2000展示イベント部門最優秀賞など。
http://www.iamas.ac.jp/faculty/nobuya_suzuki/