本を書くということについての連続対話
2025年11月から12月にかけ、3回からなるシリーズ「本を書くということについての連続対話」を開催しました。このシリーズを開催するに至った経緯と各回の概要を報告します。
私は2025年4月より本学附属図書館の図書館長に着任しました。本学附属図書館は、アート、デザイン、情報、哲学などに特化して書籍と雑誌を収蔵しているだけでなく、施設内の「メディア表現の間」で《Light on the Net》を展示するなど、メディアアートを中核とする学校として日本で最初に開学した学校ならではの特徴ある施設となっています。最近では、名誉学長の坂根厳夫先生による「坂根アーカイブ」の整備など、アーカイバル?リサーチの取り組みも本格化しつつあります。これらは前任者の松井茂さんが中心となって準備されてきたものです。

新任の図書館長として、何か本に関わる企画をやってみようと思い始めたのは、2025年9月に自身の著書『テクノロジーって何だろう?』の刊行を終えた直後でした。一般書であれ学術書であれ、本として長い文章を書くという経験は、論文を書くのとはまた大きく異なります。本を書くのは楽しくも苦しくもある大変貴重なものなのですが、経験する機会は限られています。本学には、単著や共著で本を刊行されている教職員がいらっしゃいます。であれば、そうした方々との対話を通じて、本を書くという行為の時間的内部へと開くようなイベントができるのではないかと考え、ひとまず2回からなる企画を立てました。
第1回

第1回(2025年11月6日)は、本学産業文化研究センター研究員の高森順子さんと、単著『震災後のエスノグラフィ——「阪神大震災を記録しつづける会」のアクションリサーチ』(明石書店、2023)および編著『残らなかったものを想起する——「あの日」の災害アーカイブ論』(堀之内出版、2024)を話題に話しました。高森さんは、グループ?ダイナミックスの視点から、災害体験の記録や表現をテーマに、アクションリサーチを方法論として取り組んでいる研究者です。『震災後のエスノグラフィ』はいわゆる「博論本」と呼ばれる博士論文を基にした本です。学位請求のために提出される博士論文と一般向けに出版される本では構成や内容が大きく異なることが多いのですが、この本の場合にも大幅に再構成されています。対話の中では、本になっていく過程について詳細に伺うことができました。高森さんは単著または共著として本を書くことによって可能になる展開があることを強調されました。これは、刊行は終着点ではなく、本を書いていることによってそこから始まる展開があるということでもあります。




第2回

第2回(2025年11月27日)は、研究科長?教授?前図書館長の松井茂さんと、単著『虚像培養芸術論——アートとテレビジョンの想像力』(フィルムアート社、2021)、川崎弘二さんとの共著『坂本龍一のメディア?パフォーマンス——マス?メディアの中の芸術家像』(フィルムアート社、2023)を話題に話しました。松井さんは、詩人としての活動に加えてアーカイバル?リサーチの研究者としても活躍され、直近では水戸芸術館での展覧会「磯崎新:群島としての建築」でゲストキュレーターを担当していらっしゃいます。『虚像培養芸術論』は松井さんがそれまでに書いてきた論考を再構成しつつプロローグで著者自身による解題が提示されるという構成になっています。対話において、例えば第一部「虚像培養芸術論」では美術評論家の東野芳明による著書『アメリカ「虚像培養国誌」』(美術出版社、1968)の面白さを伝えたいなど、それぞれの部分に関してどのような動機があったのかが語られました。本を書くという行為に至るからには何らかの動機があるわけですが、完成した本を外から眺めるだけでは見えないことでもあります。そうした時間的内部について伺えたことで、既にこれらの本を読み終えていた私にとっても、見え方が変わってくるような発見が幾つもありました。




第3回

当初の予定ではひとまずこの2回で一区切りとなるはずでした。しかしながら、第2回冒頭で松井さんが第3回の開催を宣言されたことにより、急遽第3回が開催されることになりました。第3回(2025年12月18日)は、『テクノロジーの〈解釈学〉』草稿第四版(2024)と『テクノロジーって何だろう?——〈未完了相〉で出会い直すための手引き』(BNN、2025)を話題に話しました。『テクノロジーの〈解釈学〉』は、公開研究ノートのような位置づけで出版を前提とせず半年間にわたって更新を重ねつつ公開してきたものです。『テクノロジーって何だろう?』は『テクノロジーの〈解釈学〉』を基にしてはいるものの、根本的な再構成とアイデアの入れ替えがあり、まったく異なるものになっています。著者の中ではつながりつつも異なる二冊についてお二人からの質問に応答する過程を通じて、本を書くということの時間的内部を少しでも共有できたのではないかと考えております。




全体を振り返ってみて、自分自身の中にある本を書くということの時間的内部の記憶が次々と想起される貴重な場でした。修士論文や博士論文と対峙する学生たちにとって、さらに大規模なプロジェクトとなる本を書くということは縁遠く思えてしまうかもしれません。しかしながら、本を書いているということによってひろがる世界があることや、一口に本を書くといってもその過程には様々なバリエーションがあることを知っていただくと、また見え方が変わってくるのではないかと思います。くわえて、同僚とこのような対話ができる非常に充実した研究環境であることを再認識できたことも大きな収穫でした。
本シリーズは不定期で継続していきたいと考えておりますので、今後の展開にご期待ください。なお、各回の記録動画も公開しております(撮影機材の不具合などにより各回で画質がまちまちとなっている点は予めご了承ください)。この足彩澳门即时盘_现金体育网¥游戏赌场を読んで実際にどんな対話が行われたのかについて興味を持っていただけた方は、ぜひご覧ください。
第1回記録動画:https://youtu.be/DA5VLZXEPGo
第2回記録動画:https://youtu.be/j6_vjPwAbw0
第3回記録動画:https://youtu.be/mCZXTvJqTfE