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学生インタビュー:森田明日香さん(博士前期課程2年)

メディア表現学が網羅する領域は、芸術、デザイン、哲学、理工学、社会学など多岐にわたります。各自の専門領域の知識を生かしながら他分野への横断的な探究を進めるうえで、学生たちが選ぶ方法はさまざまです。入学前の活動や IAMAS に進学を決意した動機をはじめ、入学後、どのような関心を持ってプロジェクトでの協働に取り組み、学内外での活動をどのように展開し、研究を深めていったのかを本学の学生が語ります。

森田明日香さん

漆芸から映像表現へ、微細な差異が導く未来

- IAMAS入学以前の活動と進学の動機について聞かせてください。

自身を振り返ると、美術系の高校で漆を学んだことが原点と言えます。漆表現の中で肌理の微細な凹凸を捉え、平らにするような技法の経験が、今の制作のテーマである「微細な差異を捉える」という視点のもとになっています。その後、秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻に進学し、漆芸の制作プロセスと融合させた差異を可視化する映像表現に取り組んできました。学部の卒業研究ではソーセージ数百本に潜在する微かな形状差を文字によって可視化するオーディオビジュアルインスタレーション作品《Lag》を制作しました。この作品では、漆芸で得た制作プロセス以外にも、人工知能に関するプログラミングや、加熱音を音響として用いるなど、複数の分野の技術を利用しています。こうなってくると、一言で「映像表現」とは言い切れず、どこの分野に属するのか分からなくなってきます。そうした曖昧なものを拾い上げ、育てていく機会を与えてくれたのがIAMASだと思います。映像、音響、工学など専門が異なる先生方によって多角的な視点から研究をみてもらえるなかで、独自の表現が深められるのがいいなと思い、進学しました。

- 在学中、学外を含めた活動について紹介してください。コンペには積極的にエントリーしていましたよね?

作品発表ができる機会には積極的に参加しました。空間構成に関するコンプレックスを感じていたので、幾度の展示の経験を通して伝え方を掴みたかったんです。デジタルコンテンツを対象としたアートコンペは数多くはないので、同級生と協力しながら情報収集し、応募しました。その甲斐もあって、いくつかのコンペに入選し、東京や大阪、秋田、山梨、福岡など、さまざまな場所で展示させていただく機会を得ました。作品を学外で発表することで、より幅広い分野や世代の方に伝わるような表現を探究していました。また、IAMAS入学以降には学会での作品発表を経験し、コンペティションとはまた違う空気を感じました。
この違いは言葉にし難いのですが、ギャラリーなどでの展覧会、コンペティション等の審査会、学会での作品展示で自分自身や鑑賞者の姿勢に違いがあって、刺激的でした。私の場合、先端音楽と映像の2つの分野で学会発表する機会がありました。発表する場が1つに限られないのも、領域横断の利点の1つに感じます。

修士作品:《Observing Variation in Sliced Loin Hams》

- IAMASに入学して、同級生や環境などから影響を受けましたか?自身の意識の変化という点で何か思いつくことがあれば教えてください。

積極的な同級生が多く、常に複数のプロジェクトや制作活動をしている様子でした。その影響で私も自身の活動に燃えたぎっていました。ただ、健康診断も真っ赤になっていたので、体の限界には気をつけたい所存です。
自分の意識の変化という点で一番大きいように感じるのは、論文を書いた経験だと思います。論文を執筆することで、自分の中で越えられなかった「言語化」という壁にヒビを入れた感覚がありました。
複数あった可能性を一つに限定していくのが、言語化するということだと思います。その判断は慎重かつ厳密に行う必要があり、それが自分の思考そのものを問い直すようなプロセスでもありました。先に挙げたコンペティションでは、ときに、相手に合わせて説明を変えることで制作の芯になる部分を見えなくしてしまうことがありましたが、論文執筆を通して、その課題を克服することができたと思います。自分がどっちに進むべきかが、論文で見えるような感覚がありました。

- 修了後の進路や、作家活動の今後の計画を教えてください。

論文執筆を機に研究者として続けていきたいと思うようになりました。
「差異を顕在化させる映像表現」というアプローチは、モチーフを変えながら継続する予定です。ただ、発表の舞台はギャラリーや美術館での展示に限らず、学会発表など、あくまで「研究」として続けていきたいと思っています。アートと研究はどう違うか?について考えた時に、一つは「メッセージ性」ではないかと思います。私は作品を通して何かメッセージを伝えたいというよりは、そこで観測できる差異がなんなのか、どういう性質、どういう由来なのかという事実を捉えたいから、もう少し研究として作品を作りたいと考えています。
卒業後は、愛知淑徳大学で映像表現について教えます。作品を制作するだけでなく、展示の精度もIAMASで求められたので、こうした知見についても伝えられたらと思います。また、愛知淑徳大学にもXRや、イラストをやっている学生もいると聞きます。そうした場所に身をおく上で、他の分野との相互作用、活用方法などは、何か自分の経験からも伝えられることがあるかも知れません。

 

インタビュー収録:2024年2月
聞き手:前田真二郎

 
※『IAMAS Interviews 04』の学生インタビュー2023に掲載された内容を転載しています。